「ななしのアステリズム」ままならない恋と友情
最近百合ファンに注目されている作品に「ななしのアステリズム」という漫画があります。ガンガンオンラインで連載中で、発売中の単行本2巻以降の話数はWebで読めます。
女の子３人の可愛い絵。「少し切なくてピュアな青春ハートフル・ラブストーリー」という煽り文。そうそう、最近はこういう楽しく読める百合作品がたくさんあって嬉しいな。
と思いきや。
最新話が更新される度百合ファンの反応は阿鼻叫喚。「胃が痛い」という声多数。
いったいどんな作品なのか？まだ読んでない人はまずWebで読める1・2話、それから2巻に収録された7話まで読んでください！
以降、ネタバレあり。
一方通行三角関係
中心となる登場人物は白鳥司・鷲尾撫子・琴岡みかげの3人の中学生女子です（後に司の双子の弟の昴、昴と同じ中学の朝倉恭介も加わりますが）。この三人が三角関係にあります。
三角関係というと一人を二人が取り合うのが一般的と思われますが、この三人は
白鳥→鷲尾→琴岡→白鳥
の一方通行の形で矢印が向いています。
鷲尾の思いを知って自分の思いを押し殺して応援する白鳥、琴岡が彼氏をとっかえひっかえするのは白鳥への思いを断ち切るためといった王道な展開ですが、三人の関係の配置によって形成されるうまくいかない悲しい均衡は美しささえ感じさせます。
ここまでが示されるのが1話。濃厚です。
その後、朝倉に告白されたり、昴が絡んできたりと何かが起きるたびに白鳥は鷲尾への思いに悩み、鷲尾と琴岡の関係にも悩み続けます。
白鳥は結局朝倉の告白を断って、今の自分の気持ちを前向きにとらえるようになり、6話終了時点で一旦は平穏を取り戻します。
転換点：7話
この漫画を勧めるとき上でも言ったように「7話まで読んで！」といわれることが多いです。
ここで読者を待ち受ける衝撃的な展開。それは。
「撫子のこと好きなくせに」
察しのいい琴岡は三角関係のすべてに気づいていました。
1話のシーンの回想で、白鳥の「叶わない恋をしている涙」を見て鷲尾への思いを確信するところは直前にハブられたと思った琴岡が涙していることを思うと本当に切ないです。琴岡はあの頃からずっと苦しんでいるのです。
それも白鳥のように一方的に自分の想い人が好きな相手を知っているというだけではなく三人の関係すべてを把握しています。白鳥への思いが届かないことに加え鷲尾の自分への思いに応えられないことがダブルパンチで効いているわけです。
琴岡はやがて、三人の関係を壊してしまおうと考えるようになります。
さらに朝倉と昴*1も加わった地雷だらけの人間関係に読者は本格的に胃を痛めるようになりました。
友情が生み出す苦しい関係
ここまでで触れたように、白鳥や琴岡の思いの深さ、重さ、そしてままならなさがこの作品の大きな魅力だと思います。
しかしここまでに語った内容は実は重要な視点が欠けています。というのは、ままならない状況を作っているのはこの三人の友達関係です。
三人ともがこの三人での関係を非常に大切にしているのです。
鷲尾は白鳥が自分が身を引いて琴岡と二人にしようとすることに憤ります。
白鳥は鷲尾を思うあまり琴岡を傷つけてそのたびに後悔します。
琴岡が三人の関係を壊してしまいたいと思うのも、白鳥を特別に思っていること、そして三人の思いを知っているのを隠していること、そういった自分の不実に耐えられないほどに三人の友達としての関係を大切にしているからです。その一方で三人の関係が大切だからこそ白鳥と鷲尾がくっつくのを何より恐れています*2。
とかく状況を一番把握している琴岡が苦しむ展開ですが、その裏には情を大切にする彼女の性格があるのです。大好き。
しかしそこまで悩みに悩んでいる琴岡も、白鳥に笑顔を向けられると簡単に揺らいでしまうことも事実です。大大好き。
今後の展開、鷲尾編の前に考えておきたいこと
現在公開されている13話まででは、最初は白鳥、7話以降は琴岡（たまに昴）を中心に胸中が語られました。
では鷲尾は？
そう、鷲尾の思いは未だに謎に包まれています。
上で「叶わない恋をしている涙」について言及しましたが、鷲尾だけが1話の中で涙を流していないのです。ということは「叶わない恋」だと思っていないと解釈できます。
鷲尾だけは自分の思いしか知らない（つまり琴岡からの白鳥への強い思いを知らない）こととも辻褄は合います。
ということは、彼女が積極的に動くことになる？
とはいえ予想もつかない展開が続くこの漫画。13話ラストの煽り「次回より鷲尾編スタート！！」*3に期待しましょう。
