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百合好きが百合や百合以外の話をする

「小百合さんの妹は天使」姉妹百合、いや恋愛漫画の最先端

姉妹、それは百合というジャンルにおいて常に存在感のある組み合わせです。

百合漫画を扱う雑誌の代表である「コミック百合姫」の前身は「百合姉妹」という名前でした。

また、百合ジャンルの歴史上重要な概念である「エス」はsisterの頭文字をとったものです。女性同士の愛情は姉妹になぞらえられて語られており、姉妹と百合は切っても切れない関係にあります。

そんな姉妹百合の漫画が2014年、一般漫画誌であるコミックフラッパーで連載されます。

それが「小百合さんの妹は天使」です。

2016年6月に完結し、先日最終巻となる4巻が発売されました。

 

私がこの漫画を知ったのは、ある画像を見たのがきっかけです。

それは漫画の1ページ。

そこに描かれているのは、繊細なタッチで描かれた、可愛らしい少女。どんな女性も魅了されてしまいそうな、タイトル通り、天使のような少女です。

しかし、その口から出た発言に度肝を抜かれます。

私… おねえちゃんとセックスしたい…!

気付けば手元に単行本がありました。 

 

しかし興味先行でこの作品を読んだ私は、別の意味で驚かされます。

かわいくてコミカルなだけじゃない、姉妹が向け合う感情の繊細さ。

その上、「百合っぽい」でごまかさず、小百合さんと美琴をはっきりと恋愛として描いています。

 「セックスしたい」がある2巻に入る前に、どっぷりハマってしまいました。

 

 ここから、ネタバレ込みで語っていきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明るくセックスを求める、でも純愛

この漫画の特徴といえば、まず目立つのが「セックスしたい」に代表される美琴の奔放な言動です。やれ

姉と妹が密室ふたりきりとかなにも起きないはずがないよ!!

とか

おねえちゃんの処女は私のものよ

とか、類稀なるワードセンスでセックスを求めます。

百合ファンの中には「性的な関係なんてダメだ!」みたいな見方をする人もいます*1。でも、この漫画の美琴の言動は、そんな批判を笑い飛ばすほどのパワーがあります。

ただの不純な気持ちではありません。美琴が姉の小百合さんに向ける愛情はとても大きなものであることが、読み進めるごとに伝わってきます。

小百合さんも、そんな妹の積極的なアタックと純粋な愛情にだんだん惹かれていきます。そしてその様子に読者も惹かれていくのです。

可愛らしく、純粋で、それでいて性には積極的。そして美琴自身が、姉への性欲を伴った愛情を肯定的にとらえている。

そんな美琴のキャラクターによって、深い愛情が(基本的には)暗くなることなく描かれていることが、この漫画の魅力です。

 

 セックスを望んだ姉妹の行く末

この漫画、2巻の「セックスしたい」発言以降、セックスという言葉がやたら出てきます。

これは上記のような美琴のキャラ付けという側面もあるのですが、物語上の意味を考えてみると、美琴はセックスに、ひいては恋人としての関係にこだわりがあるということです。

その根源にあるのは、「ずっと一緒にいたい」という願い。ただの姉妹はふつうずっと一緒にはいません。

では、そんな姉妹の関係はどう決着するのか。

 美琴にアタックを受けた当初は「姉妹は恋人になれない」と言っていた小百合さんは、ラストシーンでこう言います。

家族とか 姉妹 恋人 私たちの関係にたくさん名前はあるけど どれでもいいんじゃない?

あっさりと恋人としてのあり方を肯定し、しかし自分たちの関係はそれだけではないとも考えているのです。

恋人であろうとする*2けど、姉妹としての関係にもこだわりを持つ*3のは美琴も同じです。それを肯定してみせる。

「二人の関係につける名前はどうでもいい、特別な関係」というのは王道の(悪くいえば使い古された)決着ではあるのですが、「姉妹」の「恋愛」を描いた作品として、家族愛と恋愛のどちらも含まれる愛を受け入れる、最高の結末でした。

二人はこれからもずっと一緒に生きていくだろう*4という未来への希望を示すラストシーンは、愛の種類を規定しようとする言葉を飛び越えた、自由な愛の現れを感じ取れるのではないでしょうか。

 

 新しくて、普遍的な、姉妹の恋愛

一般的に姉妹百合には、障壁があります。

ひとつは、社会通念。現実では近親間の恋愛はタブーとされる社会が多いですし、同性愛も(受け入れるムーブメントがあるとはいえ)同様です。現代が舞台になる作品では、姉妹が恋愛する上で周りの視線が冷たいものであることも多々あります。加えて、当人たちもそんな社会の中で育つ過程でそんな社会通念を「常識」としている場合もあります。

もうひとつは、本人の意識。姉妹として過ごしてきた時間があるから、相手を恋人として見ることができない、ということです。 

この漫画が素晴らしいのは、姉妹の恋愛を徹底的に本人たちの問題として描いていることです。

社会通念は時代が変われば移り変わります。しかし本人の心の問題はいつでも存在します。「小百合さんの妹は天使」は性的少数者を受け入れるように社会が進んでいる今だからこその作品であり、しかしどんな社会でも理解できる普遍的な愛の物語なのです。

もちろん、舞台は現代日本なので、姉妹の恋愛が受け入れられるような世界観ではないと思われます。

でもそれも裏を返せば、受け入れられない?そんなことはこの作品では問題ではない。さらに発展させて考えると、周囲の見る目なんてものともしないほどの愛の強さがあるのだ、それだけの愛を描いてきたのだといえるでしょう。

 

伊藤ハチ先生は現在百合姫や@vitaminで連載をしていますが、また現代が舞台の本格的な恋愛作品も見てみたいな、と思います。

@vitaminの連載はこちら。大人な主人と小さい少女の使用人との穏やかな百合でこちらもおすすめです。

*1:コアな人はそんな時代遅れな人いるのか、と思うかもしれませんが本当です。私は実際に最近出会いました。

*2:「おねえちゃんとセックスしたい」

*3:「おねえちゃんと同じ産道も通ってないくせに」

*4:そしてハッピーラブラブセックスをするだろう