劇場版アイカツスターズ!に見る、女児アニメにおける女の子同士の関係
4月からアニメが放送開始したアイカツ!新シリーズ、アイカツスターズ!。その劇場版が8月13日から公開されました。私も楽しく見させていただきました。現在2回見て、今週末くらいに見に行きたいと思っています。
劇場版が発表されたときは、ここまで楽しいものになるとは思っていませんでした。ファンの間の認識も同じような感じだったのではないかと思います。
旧シリーズの劇場版アイカツ!(大スター宮いちごまつり)は2年間星宮いちごを主人公として描いてきた、まさに星宮いちごのアイカツの集大成であり、ファンにはたまらない作品でした。
それに対して今回の劇場版は放送開始から半年で、既存のキャラクターもそこまで馴染んでいないため、期待はそこまで大きくなかったと思います。
ですが、CMを見た一部のファンは色めき立ちました。
カップルストローでジュースを飲むゆめとローラ。
ローラにネックレスをつけるゆめ。
キャッチコピー「ふたりなら最強☆」。
そして、その予感の通りどころか、それを遥かに上回るものがぶつけられました。
「青い苺」を超える衝撃はなかなか現れないと思っていましたが、侮ってはいけませんでしたね。
以降、ネタバレに塗れた文章になります。
ゆめとローラのふたりの物語
この映画で焦点が当たったのはゆめとローラの関係です。島に眠る伝説のドレスとか、S4のめちゃめちゃカッコいいライブとか、思わず行ってみたくなるアイカツアイランドとかも魅力的なんですが、中心となるのはこのふたりです。
ドラマが動き出すのは二人の仲違いです。
テレビアニメを見ていたら、16話の時点で深い信頼関係が示されているゆめとローラが仲違いなんて信じられないわけです。どうせこの二人なら少し意見が合わなくてもすぐ仲直りするだろう?と。
ファンが納得するだけの理由を学園長が与えてくれました。
学園長から、ゆめがS4の白鳥ひめとのユニットを組む候補生だと告げられるローラ。ローラはいつまでも自分と組むよりもいつかひめ先輩と組める方がゆめにとって良い、と思ってしまいます。
ローラがゆめのことを思いやったからこそのすれ違いが元になり、ゆめはローラが当然自分と組んでくれるものだと思っていたから怒ってしまう。それがエスカレートした結果なのです。
個人的なことを言うと、ケンカのシーンがあるのはわかっていたのに実際に見ると本当に悲しい気分で泣きそうになってしまいました。
しかしもちろんそのままでは終わりません。二人が仲直りする決定打になったのは自分の気持ちに正直になることでした。
ゆめはマオリのおばあちゃんから伝説のドレスを着てアイドルをしていた話を聞いて。ローラは真昼に諭されて。*1
相手にとって自分がベストではないかもしれない、それでも二人一緒が良いという気持ちをぶつけ合います。
この仲直りのシーンでも、今度は幸福感で泣きそうになりました。
そして、二人はオーディションで優勝し、S4のステージに立つのです。自分の気持ちに正直になることがアイドルとしての力になる、という結末はアイカツ的で素晴らしいものでした。
ステージも息ぴったり、まさに二人を体現するような曲とダンスも相まって、清々しい気分で未来に向かっていくエンディングに繋がりました。
恋愛映画としての劇場版アイカツスターズ!
さて、このブログらしいことを言わせていただくと、劇場版アイカツスターズ!は恋愛映画と捉えることができます。
アイカツ!でも二人組ユニットをカップルになぞらえて語られることがありました。*2
それを踏まえて見ると、劇場版のストーリーは完全に恋愛の文脈で表現されていることがわかります。
①オーディションについて聞き、二人で出ようと約束する
仲良しです。
②ローラ、学園長から話を聞く。自分よりも将来的にひめ先輩と組む方が良いと思って、真昼と組むことを決意
さしずめ学園長はあなたとあの子はふさわしくない!と言ってくるイヤな子です。とはいえ、その理由はローラにも納得できるもの。
ゆめには自分よりもふさわしい相手がいると思ったローラは悩みます。
ローラのゆめへの問いかけも「そんなにひめ先輩が好き?」と、ゆめの気持ちを確かめるようなものであることもポイントです。
③ローラから真昼と組むという申し出。最終的に取っ組み合いのケンカになる。
ゆめは怒ります。当然です。
ローラは学園長の話を言うわけにもいかないので、ゆめより実力のある真昼の方がいいと思ってもないことを言ってしまいます。
売り言葉に買い言葉になってヒートアップ。最終的に完全に二人は決別します。
このあたりはこの子たちの中学一年生らしい部分です。
④落ち込む
ゆめは別の子と出るなんて考えられない様子。ローラが特別であることがわかります。それでも仕事はこなしますが、ふとした時にマオリに元気がないのを見抜かれてしまいます。
ローラも真昼との練習を順調に進めるものの、いつもと調子が合わない様子。
⑤自分の気持ちに向き合う
マオリのおばあちゃんの話を聞いて自分を見つめなおすゆめ。ゆめの想像では、自分がステージで輝くとき、横にはローラがいるのです。
そう、ゆめにとってローラは「未来を想像したとき、一緒にいる相手」なのです。これ、人が人を思う表現の中でも、最上級なんじゃないかと思います。
ローラに本当はゆめと組みたいんじゃないかと聞く真昼もファインプレー。本当の気持ちを確かめてくれる恋愛漫画の友人ポジションです。
二人はそれぞれお互いが必要だと自覚しました。
⑥二人の対面。気持ちをぶつけ合う
ここでゆめとローラを突き動かしたのは、ローラ/ゆめと一緒に歌いたいという自分の本当の気持ち、ただそれだけでした。
そう、ここでケンカに至った原因、ひいてはケンカのとき相手がどう思っていたかはわかっていないのです。相手にとって自分が一番なのかわからない、でも気持ちを伝えずにはいられない。
なりふり構っていられないほどに求め合うのです。ゆめなんか、森の中を走りながらいろんなローラの姿を思い浮かべてます。
それだけの思いを伝え合ったら、怖いものは何もない。ふたりなら最強。自分たちを見てくれる人たちがいる場所=ステージへと向かいます。
草原のシーンで距離の近さが完全に恋人のそれなのは言わずもがな。
どうでもいい話:ファンのアイカツスターズ!の見方について
ここまで言ったことをひっくり返すようでなんですが、恋愛文脈で描かれてるからって必ずしもそれが恋愛だというわけではないです。
恋愛だと思う人もいれば思わない人もいるでしょう。*3あえて言語で分類したくない、と思う人もいるかもしれません。*4
ファンの中でも意見の違いはあるでしょうけど、それを受け入れた上で、自分の好きなところはどんどん表明していくのが良いと思います。
作品と関係ない瑣末な話です。
佐藤監督がTwitterで「ゆめロラ」という言葉を使って批判を受ける、ということがありました。
ファンの間で使われる、ゆめとローラのコンビを表す「ゆめロラ」という呼称は、所謂カップリング的な意味を内包してもいるのですが、基本的にはコンビの名称として幅広く使われています。
ファンから生まれた呼び方は製作者側が使用するのは適切ではない、ということであればわからなくはないですが、批判した方は同性愛的な意味合いを言及したと捉えたようです。これは少し過敏な反応なんじゃないかとは思います。
たださらに問題なのは、「同性愛表現を公式が描くべきではない」と言っていることです。こういう意見は界隈では割とよく見るように思います。自分が好きじゃない、というのはまあ別に良いのですが「描くべきじゃない」というのは通らないでしょう。
自分がゆめとローラのカップリングが好きということを差し引いても、同性と恋愛する人とのような現実に存在するマイノリティが排除されるのはちょっと、いやかなりイヤです。
女児向けアニメでも、いやだからこそそう思います。現実の子供への影響、ということを考えればなおさらです。
実際に友達と、ゆめとローラのような関係になりたいと思っている子供もいるかもしれない(セクシャリティを問わず)。そんな子なら、劇場版を見て(その子なりに解釈して)勇気をもらえたということは十分考えられると思います。
子供への影響を盾にして同性愛的な表現を排除してほしいと言っている人は、例えばこういう子が、一番の存在として男の子を選ぶように「矯正」させられるのが正しいと考えているということでしょうか。そういう自分のホモフォビックな考えが正しいか、今一度考えてほしいものです。
アイカツ!は恋愛を排しながら(恋愛とのアナロジーとしても見える)アイドルの少女同士の関係を丁寧に描いたという点でも魅力的な作品でした。
描き方がいろいろと変わったアイカツスターズ!でも、ここまで見る限りではその丁寧さは受け継がれていると思います。
製作スタッフはファンの声をあまり気にせず*5、自分たちの信じる良い作品を作ってほしいです。